自分の部屋に新しい一つの扉を作ってみた。

物理的には遠かったり見えなかったりするのだけれど、
私の心の中ではいつも存在している世界がある。
そんな特別な場所にこの扉はいつでも連れて行ってくれる。

今この時点で私が対面している外側の世界と、
私の中にある時空を超えた内側の世界。

この扉を抜けると、向こうの世界への扉が開く。
こうしておけば私はいつでも私の大切な世界に入って行くことができる。
そしていつだってちゃんと外側の世界に戻ってくることができる。

ひとつ忘れてはいけないこと。
それはこの扉の鍵をいつもかけないでいるということ。

そうすると、いつか内側の世界と外側の世界が交わって、
一緒にダンスを踊り、
内側と外側が溶け合って、
一つになる一瞬がくるのです。

こんなことを思っていたら、池澤夏樹さんのスティルライフでの冒頭文を思い出した。

***************
この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。
世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。
きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。
それを喜んでいる。
世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。

でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。
きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。
きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。

大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。

たとえば、星を見るとかして。

二つの世界の呼応と調和がうまくいっていると毎日を過ごすのはずっと楽になる。
心の力をよけいなことに使う必要がなくなる。
水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなる。
星を正しく見るのはむずかしいが、上手になればそれだけの効果があるだろう。
星ではなく、せせらぎや、セミ時雨でもいいのだけれども。
***************

私はこの扉で、私の二つの世界の呼応と調和をはかることにしよう。